小鹿太郎の日記

パワハラによる休職中のこととか、あんなこととかこんなこととか。

柘榴のように燃える夕焼け

去年の今頃、生まれて初めて飼ったペットであるジャンガリアンハムスターが死んだ。

その子は、半年ほど前から腹に腫瘍ができていて、病院へ連れていくと、手術をして寿命を縮める可能性の方が高い、と診断を受けた。

私はケージの中から私を見上げるハムスターに「最後の最後まで、一緒に、楽しく過ごそうね」と、笑顔で話しかけた。

 

ハムスターが亡くなる日の朝、通勤前に、主食と別におやつをやり、水と砂を替えた後、いつものように、人差し指の裏でそっと額を撫でると「キイッ!」と、初めて苦しそうな鳴き声をあげた。

私は、慌てて手を引っ込め、改めて彼の様子を観察する。そして、もう、長くはないのだ、と気付いた。

「苦しいだろうから、私が帰るまで待っていなくて、良いよ?私は、大丈夫だから。一人で、大丈夫だから、ね?ありがとう。君がいてくれたから、毎日、本当に楽しかった。ありがとう・・・ずっと、ずっと大好きだよ」

 

仕事終わり、あの子はもう死んでいるだろう、そう確信しながら秋の終わりの夜道を、私は迷子のような顔をして、とぼとぼと、わざと遠回りをして帰った。

部屋に着いて、コートを脱ぎながらケージを覗き込んで、わかっていたのに、私は床に倒れ込んだ。

「ごめん・・・ごめんね・・・嘘だよ、無理・・・行かないで・・・どこにも行かないで!!帰ってきて!!帰ってきてお願い!!」

たくさん泣いて、食事もしばらくできなくて、ようやく口にした水分もすぐに戻した。本当に、毎晩、泣いていた。

仕事中も、赤ちゃんを見ては柔らかい肌触りを思い出し、ほのかに灯る電球を見上げてはあの子のようだと思い、トイレで隠れて泣いていた。

 

そんな、霧の中を手探りしながら進むような日々の中でハムスターの四十九日法要を終え、私は、一人、喪服のままペット霊園から海浜公園まで歩いた。

公園は、家族連れやペットを散歩させつつ楽しげに会話をする人たちの、明るい笑い声に溢れていた。

彼らの間を、私はやっぱり一人で遠くをぼんやり眺めながら歩き続けた。

 

やがて、行き止まりである、民家と駐車場に挟まれた、小さな砂浜へと辿り着いた。

見上げた空は柘榴のような色をして燃えていたが、かえって冷たい印象を受け、私は溜息をつくと、小さく独り言を呟いた。

 

「ねえ?こんな季節に、死ぬもんじゃないよ?」

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